岩手県岩泉町で山地酪農を実践する牧場長・中洞正さん

すこやかに牛が過ごす環境からおいしい牛乳が生まれる

「なかほら牧場」の創業者である中洞正さんは、1952年、岩手県宮古市で生まれました。当時の東北の山村の暮らしでは、身近に牛がいるのが普通だったそう。いつしか中洞さんは「牛飼いになる」と漠然と思いを巡らせるようになりました。

中洞さんは、東京農業大学へ進学して近代酪農を学びつつ、「自分が本当にやりたい酪農」の道を模索していました。そしてそんな時に出会ったのが、「山地酪農」をテーマにしたドキュメンタリー映画。山と牛が共に生きる、そんな光景を目の当たりにした中洞さんは、故郷に帰ってこの山地酪農に挑戦することを決意したのです。

元気で幸せな牛たちが山でのびのびと暮らす

牛舎の中で牛を飼う近代酪農では、牛の世話をすべて人間が行ないますが、山地酪農の場合は違います。牛の能力を最大限発揮してもらい、自然に任せる方法のため、人間はほんの少しの手伝いをするだけ。「酪農ではなく楽農」と中洞さんは笑顔で話します。自然放牧なので、牛は自由に山を歩き、草を食べて生活しているのでストレスフリー。いわば幸せな環境でおいしい牛乳を搾乳できるのです。

一点難しいところがあるとすれば、こうした牛乳がどうしても高価になってしまうこと。「牛乳は、本来母牛が仔牛のために命を削ってつくるものです。人間はそのお裾分けをもらう立場。安く大量に出回る現状がおかしい」と中洞さん。牛が草を食むおかげで美しい緑の草原が広がる山々。山地酪農こそ、本来の牛と人間の酪農の姿なのかもしれません。