小さな港町に根付く“酒田フレンチ”の先駆者・太田政宏シェフ

港町ならではの魚介を活かしたフランス料理

西は日本海、北は鳥海山がある海と山に囲まれた山形県酒田市。酒田市のある庄内地方は、良質な食材に恵まれた日本有数のエリアとして知られています。その豊富な食材のひとつ、庄内浜で獲れる魚介を活かし長年地元で愛されているのが、“酒田フレンチ”と呼ばれるフランス料理です。

酒田市の百貨店にある「レストラン ロアジス」の最高顧問・太田政宏さんは“酒田フレンチ”のパイオニア。横浜で育った太田さんは「父親がフランス料理のシェフだったから、自然な流れ」と、料理人の道へ進みます。東京の名店で経験を積んでいる時に、酒田出身の実業家と出会い「フランス風郷土料理 欅」を立ち上げるため酒田へ。その後同市内にある「ル・ポットフー」に移りましたが、洋食文化が浸透していない土地でフランス料理を広めるのは難しく、はじめは子どもたちがナイフとフォークを使えるようになることから教え始めたそう。その後、酒田で水揚げされる魚をコース料理のメインにし、フランス料理の技法でとった魚介の出汁を効かせた、軽い味付けにしたことで、少しずつ市民に受け入れられるようになりました。食通で知られる小説家・開高健や丸谷才一に「ル・ポットフー」が紹介されたことで日本中に“酒田フレンチ”が浸透。「酒田は“フランス料理”じゃなく“フランス風郷土料理”。地元の食材が主役なんです」と太田さんは話します。

長年の経験で築いた技術や知識を若手シェフに伝える

太田さんは、庄内地方の食文化を世間に広める「食の都庄内」親善大使の一人。食材の産地をめぐるツアーや料理教室を定期的に開催し、精力的に活動しています。また、庄内地方で活躍するシェフやソムリエが集まり、料理の知識を学んだり、交流を深めたりする「庄内DECクラブ」の顧問も務めています。

「経験のある地元のシェフたちが、若手に指導しています。店は違えど、みんな友達みたいに交流してるんですよ。自分の店だけでなく、庄内のレストラン全部がレベルアップすることが目的。ゆくゆくは、店ごとに違うスペシャリティを味わいに、世界中から観光客が訪れてほしいと思っている」と話す太田さん。

最近は、地元農家の人たちが庄内で昔から受け継がれている在来種の野菜を積極的に生産し、自らレストランに売り込みに来るそう。太田さんの活躍が、街全体の食に対する意識を高くしています。